令和3年度税制改正大綱で相続税・贈与税について「検討を進める」と明記された事項に暦年課税制度の見直しが挙げられました。今後の非課税枠などに影響があるかもしれません。記事にしてみました。ご参考まで。
暦年課税制度って何?
相続対策をするような富裕層であれば内容について分かっている方がほとんどかと思いますが、念のためおさらいを。贈与税には2つの課税方法があります。暦年課税と相続時精算課税です。イメージだけ掴んでもらいたいので計算方法は省略します。
読んだままのイメージとかけ離れていません。暦年課税は1年ごとに贈与税を納付する方法。一方、相続時精算課税は相続時に過去の贈与分を含めて相続税申告(精算)をする方法。累計2500万円までの贈与については相続時に精算すれば良いことになっています。
冒頭相談者さんが心配しているのは「暦年贈与」における非課税枠が無くなるのではないか?という点です。現行法上、暦年課税は非課税枠が設けられており年間110万円までの贈与について税金が掛からない制度となっています。ここに改正が入るのではないかという懸念です。
ちなみに、相続時精算課税には非課税枠はありません。2つの方法は選択制であり相続時精算課税を選択すると途中で暦年課税に変更することはできません。今回のテーマとは関係ありませんが注意点です。
どのような改正になりそう?
令和3年度税制改正大綱によると「諸外国の制度を参考にしつつ」とあるので、日本以外の国で採用されている制度を見る必要があります。過去の経緯からヨーロッパ、アメリカあたりを参考にすると思われます。
アメリカは生前贈与したもの全てを相続税計算に反映(加算)させる制度で非課税枠などは全く設けていないようです。ヨーロッパ(ドイツ・フランス)は日本と似たような制度にはなっているものの相続発生以前10年間や15年間の贈与について相続税計算に反映させる取り扱い、とのこと。
アメリカ型になるのが最も厳しい改正で、ヨーロッパ型でも現行法からすれば増税になりますね。日本は生前贈与加算は3年前までが対象なので。令和3年度税制改正大綱ではまだ検討を進める段階です。いつ改正が入るかは不明ですが過去に遡って適用されることは無いでしょう。そして若干期間の猶予もあると思います。
贈与を考えているならば早めの対応を、となります。
将来的には一本化を目指している
暦年贈与をした人と何もせずに相続した人で税額に差がでるのはおかしいから「一本化」しようという考え方が背景にあります。財産を移転する時期によって格差が生じるのはどうなの?ということです。まずは導入しやすい生前贈与加算の期間を伸ばす方法が取られるのではないでしょうか。3年からの変更です。
10年だといきなり3倍強になってしまうので、入りは5年とか緩やかになるかもしれません。…が、いずれは10年・15年と広げて「生前贈与ってあまり効果的ではないよね」というレベルに持っていくと推測します。当該税制大綱には相続税と贈与税をより一体的捉えて課税する観点からとしっかり書かれています。
最終目標はアメリカのように生前贈与は全て相続税に反映(一本化)したい、と読めますね。2015年改正で大幅増税があった相続税ですが、まだまだ富裕層への課税強化は止まりそうもありません。所得税も富裕層を狙った増税が続いています。
唯一、法人税は国際競争の影響で減税が続いています。相続対策にも法人を活用したいですね。
おわりに
最後に法人を活用したいという話をしました。よくある具体例を示します。
富裕層の方は既に法人を持っている、賃貸用不動産を持っていることが多いです。富裕層向けセミナーやコンサル会社がおススメしているので当然と言えば当然の話。私も相談を受ければ提案しています。
スキームを超簡単に説明すると①法人の役員に子供や孫を就任させます②賃貸用不動産の建物部分を法人に売却して、賃貸収入を法人側で計上できるようにします(法人で直接不動産購入してもよい)→そこからあがる利益を子供や孫に役員報酬として支払えば資産を移すことが可能。借地権など細かい話は省略します。紙面が足りなくなるので。
不動産賃貸業でなくても別の事業(本業)で利益が上がっているなら、それを活用すればOK。わざわざ建物部分を法人に売却する面倒な手続きは必要ありません。登記費用が掛かるし、ローンが残っていれば名義変更手続きなどもあります。売却に係る会計処理・確定申告は複雑になります。自力でやるのは難しく専門家報酬(司法書士・税理士)もプラスされるでしょう。初期費用がそれなりに発生します。
冒頭相談ケースで目的としているのは自分に入ってくるCashを次の世代に移す(贈与する)ことですから、必ずしも不動産業である必要はないということです。商売をしているなら法人を通すことで次の世代に移すことは可能ですよ。よくある事例が「不動産賃貸業」だという話です。
※現行法上、不動産は市場価値より相続税評価額が低くなる為、相続対策として非常に有効となるのは事実です。法人が所有している場合も基本的には相続税評価額で評価されます。不動産投資を勧められることが多い理由はここにあります。
※役員報酬は際限なく認められる訳ではないです。不相当に高額として否認されることもあります。
今日はここまで、また次回も宜しくお願いします!
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