現行法では上場株式等の配当や譲渡に係る申告について所得税と住民税で異なる方法で申告することが可能です。納税者が有利になる方法を選択できます。ただ改正が…記事にしてみました。ご参考まで。
上場株式等配当への課税方式
株式投資をしている方のほとんどが「特定口座・源泉徴収あり」を選択しています。なのでこれを前提に話します。
源泉徴収ありを選択していると自動的に源泉徴収されます。20.315%の源泉所得税が差し引かれ残りが証券口座に入金されます。岸田政権で金融所得課税が注目されていた為、この税率を覚えている方も多いはず。※将来的には税率を引き上げ?という議論があります。
上記源泉徴収された上で下記の3つの方法を納税者は選択できます。
①申告不要
②総合課税による申告
③分離課税による申告
株式投資に係る申告が複雑になるのは3つの選択肢があること、所得税と住民税で別々の課税方式を選択できることが原因です。
どの方法を選択すれば良い?
人それぞれ所得控除額が違うので皆さんにとって馴染み深い年収ベースでは一概に言えません。…が、所得が一定程度を超えたら「総合課税は選択しない方が良い」という回答になります。
総合課税は他の所得と合算して税金を計算します。超過累進税率の適用対象となるため高い税率(最高45%、住民税10%)で課税されている富裕層にとっては申告不要や分離課税(20.315%)で課税される方が支払う税金は少なくなります。
逆に年収が一定程度以下であれば総合課税を選択して配当控除(控除率10%)を受けた方が有利です。この一定程度の目安となるのが所得900万円以下になります。念を押してもう一度言いますが、年収ではなく所得です。各種所得控除(社会保険料・配偶者・扶養・生命保険などなど)後の金額になります。
例えば超過累進税率10%(所得分布統計で最も多い)の区分に該当する方の配当に係る所得税はゼロになります。
住民税は控除率が違うので注意!
前ブロックで「超過累進税率10%なら所得税はゼロになる」と言いました。配当に係る税金は所得税と住民税があります。そこで、冒頭相談ケースの話になります。住民税は配当控除率が違うのです。所得税よりだいぶ少ない2.8%…。
ということは、住民税は一律10%なので総合課税のままだと住民税負担は10%-2.8%=7.2%になります。申告不要の場合の住民税負担は5%です。どちらがお得ですか?住民税は申告不要を選びましょう!というのが今回のご相談の回答になります。
現行法上は、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができます。どの方法を選択するかで有利不利が出てくる為、冒頭のような相談を受けることが多くなります。知っているか否かで税金支払額に影響を及ぼします。該当する方は是非覚えてもらいたい点になります。
おわりに
税金とは別で主に自営業(フリーランス)や年金暮らしの方は注意が必要です。
国民健康保険、介護保険、後期高齢者医療保険、高齢者の医療費窓口負担額などは前年住民税計算に用いた所得を基に決定されます。つまり、これらも配当所得を申告不要とするか総合課税とするかで支払額が異なるのです。
総合課税にすると配当収入の分だけ所得が増え負担額が増加します。給与所得者であっても保育園の保育料算定などには住民税に係る所得を用いますし、配偶者の扶養、親の扶養に入っていれば配当収入を計上することにより扶養から外れる可能性もあります。扶養から外れると配偶者や親の税負担が増えます。
株式の申告は複雑なのでもはや「何言っているのか分からない」という方も多いでしょう。結論だけ覚えてください。所得税で総合課税を選択した人は住民税を申告不要にしましょう。これで諸々の負担は最小になっているはずです。
嬉しいお知らせを。2022年3月15日期限の確定申告から申告書第二表に〇(マル)を付すだけで住民税申告不要を選択することができるようになりました。これまで所得税確定申告書とは別に住民税申告書の作成をする必要があってかなり手間が掛かりました。我々(税理士)の願いが通じたんだと喜んでいます、笑。
一方で悲しいお知らせを。先日、令和4年度の税制改正大綱が発表されました。2023年分申告から所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができなくなります。覚えておいてくださいね!と言っておきながら今回(2021年)と次回(2022年)の申告にしか使えません…。
趣旨はいつも通り課税の公平性でしょうね。どちらを選択するかで税のみならず社会保険料負担が変わる→公平ではない、一本化しよう(所得税と住民税で別々の申告はさせない)という流れです。岸田政権はご存知の通り金融所得については厳しめですから今後の改正内容も注目です。
今日はここまで、次回もよろしくお願いします!
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