岸田内閣発足により「金融所得課税の見直し」が注目を浴びてます。我々(税理士)もどうなるか注視しています。配当所得、株式の譲渡所得への課税が今後どうなる?記事にしてみました。まだ政策決定されたわけではないので予想です。ご参考まで。
金融所得への課税方法が変わる?
まずは何をどう見直すのかという基本的な話から。既にご存知の方も多いと思いますが、当ブログは会計・税務のプロ向けに書いていませんのでご容赦ください。
多くの方が手にしている事業収入・給料と金融所得(配当や株式譲渡益)では税金の計算方法が異なります。総合課税と分離課税の違いです。
総合課税は各種所得(儲け)を合計して、その合計金額によって段階的に税率が増える超過累進税率で税額計算をします。一方、分離課税は総合課税に係る所得とは別個に分離して課税する方法です。金融所得は分離課税であり一律20%(所得税15%、住民税5%、復興特別税を除く)になっています。
見直し案は二つ出ているようです。
①分離課税を廃止して総合課税に組み入れる。→超過累進税率の対象にする。
②一律20%の部分を引き上げる。→25%、30%など。
いずれになっても投資家にとっては現行制度からは増税になります。
※岸田首相は「先送りする」という方針を示しています。
格差是正が目的です
なぜ見直しが必要かについて岸田首相は格差是正を挙げています。上記を見れば分かる通り総合課税(超過累進税率)で最高税率(住民税含めて55%)が適用される超富裕層であっても金融所得については一律20%の税率に抑えることが可能です。
お金持ちであればあるほど投資に回せる資金も多い。いわゆる「1億の壁」という問題が発生しています。所得が1億を超えた辺りから所得税負担率が徐々に下がる現象です。財務省(国税庁)はこれを問題視していて政府に提言しているのでしょう。
もっともらしい政策に見えますよね。ただ簡単ではなさそうです。岸田内閣発足と同時に株価は急落「岸田ショック」などと言われ、必死に火消しに回っている様子が伺えました。経済界からの要請があったかもしれません。→金融所得課税については「当面触ることは考えていない」とのこと。
投資家の皆さんにとっては一安心ですが、格差是正を実現する手段の一つとして照準に捉えられている状況は変わりません。他の記事でも何度も同じことを言っていますが、お金持ちへの増税は国民からの理解が得やすい(票に結び付きやすい)です。
野党側は今回の選挙で岸田さんのトーンダウンについて攻撃(争点)していましたよね。今後どうなるでしょうか?選挙は自公が政権を維持しました。
庶民への影響は?
格差是正実現のため政策実行して仮に株価が急落すれば大企業(上場企業)は打撃を受けます。大企業が打撃を受ければその取引先である中小企業にも影響が出ます。 その悪影響が長期間続くor短期間で終息する、については専門外なので分かりません。
株価への影響が長期に渡れば間接的には庶民の私達にも影響があります。投資をしなくても給料や売上に影響が出るかもしれませんからね。
一方、税金面だけ考えるとNISAやiDeCoなど非課税制度が整備されています。制度枠内であれば税金が掛かりません。一般的な家計を念頭に置いた場合、夫婦でこの枠を使い切ってなお投資に回せるお金がある世帯は富裕層(準富裕層?)に該当します。非課税枠を超えて投資できる人は格差是正にご協力ください!と国は考えるのではないでしょうか。なので、庶民に税金面での影響はありません。
※増税後の適正な非課税枠や適用期間については今後の議論になると思います。
例外は、かなりの倹約家で給与所得や事業所得は少ないが投資に回せる資金がたくさんあるという方。このケースでは改正が②(分離課税のまま税率UP)の場合、国内株式への投資は確定申告で配当控除を受けましょう。売却益は残念ながら増税の影響をうけます。
改正が①(総合課税に組み込まれる)の場合、金融所得も自分の所得に見合った税率(超過累進税率)で課税されます。上述ケースのような方でも適正な税負担となります。
長々書きましたが結論は長期投資目的で積立NISAやiDeCo枠を利用している人間への直接的な影響はありません。(私のことです、笑)
おわりに
見直し案①②のどちらになるのかは今のところ不明。ただ、総合課税に組み入れる場合は確定申告が必要になると思います。経理部の負担を考慮すると年末調整対象にはならないはずです。また、別の問題として投資成績(儲け)が会社に知られて気持ち良い人などいるでしょうか?万が一、年末調整対象となったとしても 1人社長、家族のみの会社を除き、多くの方が確定申告に回ると予想します。
確定申告する人が増えすぎると税務署はパンクします。 よって②の現行税率を引き上げる案が有力ではないかと考えます。更に更に、総合課税にすると損益通算(株の損失と事業や給料の所得を相殺すること)が可能です。これを防ぐ目的で分離課税を採用している側面もあります。
現在の仮想通貨の取り扱いに倣って総合課税による雑所得扱いで損益通算なし、欠損繰越もなし、では経済界が黙ってません。ますます②の可能性が高いのではと考えます。
話は変わって、そもそも論をひとつ。「貯蓄から投資へ」という世の中の流れを作ったのは現政権与党です。今回の衆議院選挙も議席を確保しました。私自身は富裕層ではないので怒り心頭になってませんが、同情する気持ちもあります。投資に回せってと散々言っておいて増税しちゃうのか?と…。もし富裕層投資家が投資を引き上げたらNISA、iDeCoで運用している庶民にも影響でるのでは?年金資金の運用とか大丈夫?といろいろ心配にもなります。
選挙が近づくと庶民ウケが良い富裕層いじめ政策が増える印象があります(間違っていたらすみません)。ただ、金融所得課税見直し=格差是正という単純な話ではないかもしれません。岸田首相は「先送り」を決めました。野党はこれを争点として戦った結果、勝てませんでした。特定の政党に肩入れするつもりはありません。今後の政権運営を冷静に見つめたいと思います。
自民党(岸田首相)も「1億の壁」については当然認識しています。どうなるでしょうか注目です。今日はここまで、また次回も宜しくお願いします!
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